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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)2977号 判決 1995年12月26日

控訴人(附帯被控訴人)

興銀ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

小林秀文

右訴訟代理人弁護士

加藤一昶

大江忠

加藤幸則

笠井翠

吉嶋覺

向井秀史

被控訴人(附帯控訴人)

破産者尾上縫破産管財人

滝井繁男

右訴訟代理人弁護士

小林邦子

主文

一  本件控訴につき

1  原判決を次のとおり変更する。

2  控訴人は被控訴人に対し、金三二億九四〇〇万六六五二円及びこれに対する平成四年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

二  附帯控訴につき

1  附帯控訴を棄却する。

2  附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の申立

(本件控訴につき)

一  控訴人

1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2 被控訴人の請求を棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

(附帯控訴につき)

一  附帯控訴人

1 原判決中、附帯控訴人敗訴部分を取り消す。

2 附帯被控訴人は、附帯控訴人に対し、金三二億九四〇〇万六六五二円に対する平成三年八月二二日から平成四年一〇月七日まで年六分の割合による金員を支払え。

3 附帯控訴費用は附帯被控訴人の負担とする。

二  附帯被控訴人

1 附帯控訴を棄却する。

2 附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

一  本件事案の概要は、原判決一一枚目表二行目の次に改行のうえ

「4 遅延損害金の始期について

被控訴人は、控訴人の担保処分等は権利濫用として許されないから、担保提供者である尾上縫(以下「破産者」という。)に対し原状回復をするべきであり、それが不可能なときはそれに代わる金銭に、控訴人が右原状回復義務を負った平成三年八月二二日から法定利息を付して返還すべき義務があるから右同日以後遅延損害金を支払うべきであり、あるいは破産者は、控訴人が右債券の処分をしていなければ、平成三年七月二九日に差し入れた割引興業債券(以下「割引債」という。)のうち三二億円分の満期が平成四年九月二九日であることから、右処分以降同日まで年6.7%の利息を得ることができたはずであり、右処分によりその利息相当分の損害を受けたので年六分の限度で請求しうると主張し、控訴人はこの主張を争った。」と加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  証拠

証拠関係は原審及び当審記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所は、被控訴人の請求を理由がある(但し遅延損害金の始期とその割合については主文掲記の限度)と判断するものであるが、その理由は次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に関する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一一枚目裏五行目の「二三」の次に「、二九」を、同行の「証人坂本」の次に「、証人畠山」を、同一二枚目裏四行目末尾の次に改行のうえ、「そして破産者は平成三年七月一〇日頃、日本興業銀行(大阪支店)に対し従前担保として提供していた割引債(額面三一二億九九五〇円分)の代わりに同金庫の定期預金証書三〇〇億円を差し入れたいと申し出て、右定期預金証書の偽造の事実を知らない同銀行は、同月二二日にこれに応じて右割引債を破産者に返還した。」をそれぞれ加える。

2  同一三枚目表九行目の「思い、」の次に「同月一〇日に」を加え、同裏七行目の「その後、」を「同日、」と、同八行目の「破産者に対し、」から同一〇行目の「そのころ、」までを「破産者に対し、従前担保設定手続きを留保していた土地建物に対してその手続きを要求するため「大黒や」にある破産者の事務所に赴いたが、破産者と面会できず、この手続きも行うことができなかったが、当時、」とそれぞれ改める。

3  同一五枚目裏五行目の「七日ころ、」を「一〇日、」と、同一六枚目裏末行の「これにより」から同一七枚目表初行の「あるばかりか、」までを「これにより控訴人は計算上は返済期日までの戻り利息金と調達資金の利息との差額(利鞘)を利益として受けることとなるが、」とそれぞれ改め、同一七枚目裏二行目の「とはいえず、」の次に「前記認定のとおり被控訴人は計算上は同月一三日から同月二二日までの利息金等の利益を取得したものの」を、同三行目の「利益を放棄し」の次に「(第二貸付金と第三貸付金について八月二三日から右各弁済期までの利息金約二九九八万円余りの利益放棄となる。)、控訴人は結局右差額分相当の利益を喪失し」をそれぞれ加える。

4  同一八枚目裏五行目の「右は」から同六行目の「妨げるものでなく、」までを「控訴人は、日本興業銀行の周辺業務を担当する会社として設立され、その株式は日本興業銀行が五%(この割合を越える取得は独占禁止法上取得できない。)、興銀リース等日本興業銀行傘下の会社が残り九五%の株式を保有し、社員は二〇名程度ですべて日本興業銀行からの出向社員であり、東京所在の本社以外には店舗を有せず、破産者との取引に関する書類の授受も日本興業銀行(大阪支店)が関与することが多かったこと等が認められることや(畠山証人)、前記認定の本件債権譲渡契約書等の作成の経緯とも対比すると、右証言は単に形式論を述べたにとどまり、前記推認の妨げとなるものではなく、」と改める。

5  同二〇枚目表二行目の「たのでは」の次に「、偽造手形の発覚等の時期、逮捕の時期あるいは第一回目の不渡りの時期との関係から、当時の段階では支払停止の時期を一義的に認定できず、その認定次第では」を、同裏五行目の「行ったとしても、」の次に「問題が担保権行使の濫用から相殺権の濫用ということになるだけで、」を、八行目の「できない」の次に「(控訴人は、この点につき、前記割引債は日本興業銀行の発行した社債であるから、同銀行は破産者がこれを入手した当初から本来同社債上の債務を受働債権として破産者に対する債権と相殺する期待利益を有していたのであるから、本件債権譲渡によって債権を回収しても不当に利益を受けたことにならない旨主張するが、前記割引債は期限前であっても市場で自由に処分できる有価証券であって日本興業銀行において担保として右債券を保管していない限り、仮に相殺ができたとしても債券所持者に対抗できないから無意義であり、したがってそもそも日本興業銀行が右相殺を期待できるものではないから、この点に関する主張も採用できない。又、本件債権譲受が支払停止以後であったとしても相殺の制限には控訴人の不当性が要求されるところ、控訴人にはその不当性がないから相殺することも適法であった旨主張するが、控訴人には前記認定のとおり一般債権者の犠牲において日本興業銀行の債権回収という利益を図ることを認識してこれに加担したものであるから右主張も採用できない。)」をそれぞれ加える。

6  同二一枚目表八行目末尾の次に改行のうえ次のとおり加える。

「さらに控訴人は当審において権利濫用でない根拠として、①控訴人は日本興業銀行グループに属し、同銀行とは実質的な親子会社あるいは系列会社という関係にあり、同銀行の為に事実上債権を回収しうる地位にあり、同銀行のためにその債権回収をする必要があったから、控訴人が同銀行から本件の債権を譲り受けてそれを被担保債権として担保権を実行することは正当な利益に基づくこと、②本件債権の譲受は、破産者の支払停止以前で相当な対価を支払っており、特別な利益を得たものでなく、民法第三九八条ノ三第二項の法意に反した行為でないこと、③担保余力は当然に一般債権者の責任財産となるものではなく、被担保債権極度額の変動する有価証券根担保においては、担保目的物の価値は当該担保権利者が取得するものであり、本件はその担保余力を利用させただけであり、明文の規定のない限りこれを制限できないし、駆け込み割引等の場合と異なり一般債権者を害するものでもないこと、④本件破産者の債権者はいずれも銀行やいわゆるノンバンクといわれる金融会社や事業会社であり、債権回収に十分な法的知識や手段を行使し得る者であり、零細な一般個人でないから背信性もない等と主張する。

しかし、①については、一定の企業グループに属する企業が親子会社その他経済的一体性のあるそのグループ企業の利益を図ることを目的としたからといって、グループ外の第三者たる他の一般債権者の利益の侵害までも正当化できるとする理由はない。②については、前記認定事実に照らすと、控訴人が本件債権を譲受けた時期は破産者の支払停止以前であることは認められるが、それ故にこそ権利濫用の成否が問題とされるのであり、支払停止以後に譲受けたときは民法第三九八条ノ三第二項を類推適用すれば足りること、右法条は根抵当権者と結託して低価で債権の譲渡をすることのほか、本来無担保債権者である手形債権者等が根抵当権者と結託してその手形の割引をする等して、本来得られない利益を得ることとなる不公平な取引を防止し、もって一般債権者や後順位権利者等の利益を保護せんとする趣旨に出た規定と解され(対価が相当であることは右規定適用の除外事由とはされていない。)本件債権譲渡の場合もその対価の廉価性ではなく、控訴人の有する担保の余力を第三者に利用させること、すなわち控訴人の債権譲受と担保権の行使等が一般債権者を害するか否かが問題なのであるから、これらの点に関する控訴人の主張はその前提を欠く。また控訴人自身が利益を受けていないことは前記認定した本件相殺及び担保権行使の実態における控訴人の背信性を減殺するものではない。③についてみるに、有価証券根担保は極度額について特段の定めがされない場合は、その目的物の価格が変動するのに伴い被担保債権極度額も変動するから、その担保価値全部が担保権利者が把握するものであるというべきであって、一定時点における実際に存する債権額とその担保価値との差額である担保余力がある場合と雖も右余力部分が当然に一般債権者の責任財産とならないことは、控訴人の主張のとおりである。しかしこれは担保権利者が把握した担保価値、すなわち被担保債権極度額を公示する方法がないこと及び有価証券根担保権が目的有価証券を適正な評価額で換価処分した換価金から債権の満足を得ることを内容とする担保権であることから生ずる結果に過ぎず、破産等により継続取引が終了し債権確定に至った場合は、その担保余力部分は破産財団に帰属し、あるいは一般債権者の責任財産となるものであることは他の担保の場合と異ならず、この有価証券根担保のみその性質から権利濫用の規定の適用が排除あるいは制限されるとする根拠はないというべきである。そして支払停止以前の段階でも債務者の支払能力が危機的状況であることが客観的に裏付けられ、特定の債権者の利益を図る為に担保余力を行使するときは一般債権者を害することとなることが十分認識し得る状況が存する場合には、担保余力の行使はその実質において駆け込み割引等と同様の不当性、反信義性を有するに至るものであり、かかる場合担保余力の利用と駆け込み割引等とに差異はないというべきである。そして前記認定した破産者の逮捕に至る経緯及び本件債権譲渡の行われた経緯に照らせば本件が右の場合に該たることは明らかである。④については、破産者の債権者は、銀行やノンバンクであり債権回収の知識も有し、その回収手段を行使するに何らの妨げのない法人が多いことは認められるが、このような一般債権者でも本件で控訴人の把握した如き担保余力部分について直接に法的手段を講じる方法がなく、この点につき一般債権者が法的知識等を有しているか否かによっても差異がないこと、これら債権者の多くは、それらの者の破産者に対する債権の発生原因が投資資金の融資によるものであって、偽造定期預金証書による被害を受けている点でも日本興業銀行と同様の立場にあると認められること(弁論の全趣旨)、又一般零細の個人が一般債権者であれば、控訴人の権利行使による犠牲の結果がより大きいということはできるが、銀行やノンバンクであるからといって控訴人の権利行使による被害が小であるとは一概にはいえないこと等からすると、右事由は控訴人の権利行使の背信性を否定する根拠とならないというべきである。以上のとおり右控訴人の主張はいずれも採用できない。

7  同二一枚目表九行目冒頭から同裏二行目末尾までを次のとおり改める。

「4 尚被控訴人は、遅延損害金として本件担保処分等をした平成三年八月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を請求するが、本件請求は権利濫用により無効とされた担保物処分の代金及び相殺の受働債権の返還を求めるもので、その法律上の性質は不当利得の返還請求権であるから、期限についての合意等の認められない本件においては期限の定めがないものというべきであり、したがって被控訴人の請求のなされたことが明らかな控訴人への訴状送達の日の翌日である平成四年一〇月八日から起算すべきである(尚被控訴人は、この遅延損害金について予備的に不法行為による損害として請求するが、前記のとおり控訴人の担保余力の行使等は権利濫用に該たるとはいえ、不法行為と認めるに足る違法性までも認めることはできないから、右主張は採用できない。)。また遅延損害金の利率は本件請求債権は商行為によって生じた債務とはいえず、又その変形ともいえないから民法所定の年五分と解するのが相当である。」

二  そうすると被控訴人の請求は、遅延損害金の始期とその割合については右の限度とするほかは、理由がありこれを認容すべきところ、控訴人の本件控訴は遅延損害金の割合部分につき理由があるから原判決を右限度で変更し、被控訴人の附帯控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官武田多喜子 裁判官松山文彦 裁判長裁判官山中紀行は退官のため署名押印できない。裁判官武田多喜子)

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